もはやコミュ力は不要!? SE(SIer)のためのWeb転職必勝法

悩む面接

長年言われていることではありますが、「SIer」は、不況やIT業界構造変化により、じりじり減益しています。

そのため、SIerに所属するエンジニアから、スマートフォンやスマホゲームなどで収益を上げている「Web系企業」への転職が止まりません。実際、こういったサイトを運営していると、多くの「SIerから抜け出したい」というご意見を多く頂戴します。

しかし、私はふと思いました。「本気でSIからWebへの転職を希望するなら、もっと準備するべき!」と。

同じソフトウェア開発事業でも、SIerとWeb系企業の仕事内容はまったく違います。あらかじめそれを理解しておかないと、実際に採用試験を受けても、あなたのPCのメールボックスに「お祈りメール」が届くだけです。

今回は、「SIerからWeb系企業に転職する際、知っておくべきこと」を紹介します。

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「SIer」と「Web系企業」の定義から

まずは、「SIer」と「Web系企業」の定義からはじめましょう。

上の図が、「SIer」とWeb系企業」をざっくりくくった図ですが、SIとWEBでより厳密に線引を行うのは難しいです。研究開発して、自社プロダクトを出しているSIerだってありますし、受託開発をメインに行うWeb系企業だって珍しくありません。

ですから上の図は、あくまでSIとWebそれぞれの「目安」としてください。マトリクスの左上に行くほど「SIer的」、右下に行くほど「Web企業的」と思っておいてください。

SIer→Webの流れは最高潮に…?

多くの転職希望社の「転職目的」「転職理由」を聞いてみると、SIerからWebへの転職を希望する、大きな”流れ”のようなものを感じます。具体的に、どんな理由や志望動機で転職しているのか聞いてみると、

  • ユーザーの声をダイレクトに聞ける現場で働きたい
  • 納品して終わりのシステム開発ではなくて、自分が作ったサービスという形で開発に関わりたい
  • エンジニアとしての意見が反映される仕事がしたい

などなどです。
中でも、「受託開発で手元を離れるシステムより、自社サービスや自社プロダクトを開発したい」「使いみちの分からないBtoBのシステムより、皆が知っているBtoCのサービス開発がしたい」という声が意向が強いようです。

転職するには動き出さなければいけない

決意する人

なるほどなるほど、皆さんの、「左上から右下に行きたい」という気持ちは強く感じました。

しかし、そういった強い思いを抱えた人たちの応募書類には、「上流工程に進みたい」とか「顧客折衝が得意」とか書いてあります。
…それでは、SIで得たスキルを得て、Web系企業でどんな仕事がしたいのですか?あなたを採用すると、弊社にどんなメリットが?…なんて、圧迫面接っぽいことを言いたくなってしまいます。

私が言いたいのは、SIからWebへの転職を希望するなら、Web系企業で歓迎されるアピールをして、そこで要求されるスキルやマインドセットを身に着けておく必要があります。

「Web系企業への転職」を果たすには

では実際に、SI出身のエンジニアが、Web系企業への転職を目指した場合、どうすればいいのでしょうか。気をつけておくべきなのは、「SIerとWeb系企業のギャップ」です。

Web系のエンジニアとして働くためには、受託開発・業務システム開発の世界での常識を、一切取り払う必要があります。実際にそうしたマインドセットの切り替えがてきないと、Web系企業への転職は成功しません。具体的に何を捨てるかというと…

  • 開発手法を捨てろ
  • コミュ力を捨てろ
  • 幻想を捨てろ

どういうことなのか?一つずつみていきましょう。

開発手法を捨てろ

ノートPCと男性

まずは、あなたの中に根付いた開発手法を投げ捨てなければなりません。

ここで言う開発手法とは、「ウォーターフォール」だとか「アジェイル」と呼ばれるものです。「SIer=ウォーターフォール」「Web=アジャイル」とまとめると、方方から怒られてしまいそうですが、そういうった傾向は確かに存在します。

SIとWebは開発スタイルが違う

SIerはどちらかと言えば、ウォーターフォールモデルで開発することが多いです。「要件定義→設計→開発→テスト」の肯定を明確に分割して行い、前の工程に戻ることを基本的に良しとしません。フローの出戻りはプロジェクトの失敗に繋がってしまうのです。業務システムを受注開発するSIerはこのスタイルを選ぶところが大半、といった感じでしょう。

逆にWeb系企業では、アジャイル開発手法を取り組んでいるところが多いです。自社のサービスを日々運用する上で、刻々と変化する社会情勢やユーザーニーズに対応する必要があります。そのため、「アジャイル開発を取り入れています」という表明をしていないWeb系企業も、自然とアジャイルを開発手法を取り入れている現場はたくさんあります。おそらく、がっちりと工程が分割されたウォーターフォールモデルでは、早い変化についていけないのでしょう。

「変化を受け入れる」姿勢を受け入れる

つまるところ、Web系企業でエンジニアとして活躍するためには、「変化を受け入れる」スタイルに馴染む必要があるのです。

「SIer地獄あるある」定番のネタには、「ころころ変わる仕様のせいでプログラマがデスマーチ」というものがよくあります。しかしWeb業界では、仕様どころか要件すら日々変わっていきます。ですから、「変化する」という考え方に、まずはエンジニア自身が「変化する」必要があるのです。

そのため、常に変化するWeb系企業への転職を考えているのに、「上流工程の経験があります」「プログラマのみならず設計者として成長したいと思っています」というアピールは「逆効果」です。

Web系企業では、サービス開発において、「企画」「設計」「開発」といった職務の境界がとても曖昧です。日々変化する要求に素早く応えるためには、担当職務に囚われている場合ではないのです。

Webには上流開発も下流開発もない

いかがだったでしょうか、Web系企業への転職を希望しているにかかわらず、「上流・下流」「SE・プログラマ」とか言っているのが、いかにまとはずれかわかっていただけたでしょうか。設計しかできない人、「プログラマは下流の仕事だからやらないよ」という人は、残念ながらWeb系企業の中には居場所がありません。

Web系企業では、役割を厳密に規定しない「機能横断型チーム」で開発することが多いです。そのため、「職務を限定するような考え方」は嫌がられます。「機能横断型チームの一員」として要求に応えるために、応募書類や業務外には、これから伝えることを心がけてみてください。

設計が得意な人

設計自体はとても重要なスキルです。良い設計は実装を簡単にし、バグを減らします。しかしWeb系企業では、「設計書」は重要な成果物となりません。自分で手を動かし、設計を実装まで落とし込めるところまでスキルを磨いて、それをアピールしてください。

実装が得意な人

もちろん、プログラミングスキルは重要です。しかし、SEから降りてきた設計書をコードに書き写すのでは、「プログラマ」とは言えません。現在まだ上流工程の経験があにとしても、SEの仕事を盗むことができないでしょうか?もし実際の業務で経験できないなら、業務外で行いましょう。面接にて、「Webサービスの設計から実装、リリースまでをすべて1人で行った」と言えたなら、それは大きなアピールとなります。

コミュ力を捨てろ

笑顔の会議

次に捨てるのは「コミュニケーション」能力です。

応募書類のアピールポイントの定番「高いコミュニケーション能力」。

職務経歴書でしばしば、下記のような文言を目にします。

  • 顧客との折衝経験があります
  • サブリーダーとしてチームをまとめました
  • 上流SEとの使用調整ができます

「自分はエディタやターミナルだけじゃなくて、人間とのコミュニケーションも得意だよ!」という気持ちがあるのはわかりますが、ハッキリ言ってこういったアピールは「無駄」です。「コミュ力が高いです!」「そうか、よし採用!」となるわけがないのです。

コミュニケーションは自社内で完結!?

自社サービス・自社開発の場合、コミュニケーションを行う対象は、自社メンバーである場合が多いでしょう。自社サービスやプロダクトの顧客は、そのシステムを実際に使う「エンドユーザー」なのです。彼らがシステムの勝ちを認め、楽しさや利便性に対価を払ってもらうのがWebのビジネスモデルです。

とはいえ、エンドユーザーの声を直接聞いているだけでは、仕事になりません。スマートフォンアプリやグルメサイトで、レビューに酷評がつくことも多いですが、無責任で飽きっぽいエンドユーザーの声は、そのままでは「顧客の声」とはいえないのです。

そのために、自社サービスやプロダクトを開発する際には、「ディレクター」や「プランナー」など、開発の方向を企画する職種を設定することが多いです。エンドユーザーの意見、要求を整理し、一番効果がある次の一手を考える。いわば「エンドユーザーの代理人」として見ると、エンジニアにとっては彼らこそ「顧客」に違い存在だと言えるでしょう。

自社内のコミュニケーションの目的

そしてそうした「ディレクター」や「プランナー」は、エンジニアと同じ会社に所属し、同じミッションに取り組んでいる、同じゴールを目指す「チームの一員」です。最終的なゴールに達するために、常にコミュニケーションを取る必要があるのです。

つまり、Web系企業で求められる「コミュニケーション能力」とは、上辺を取り繕った、なあなあになった事象の落とし所を探すためのものではないということ。「手ごわい質問をぶつけ合い、本質を明らかにする」ためにするものなのです。

SIerではアピールになり得る「顧客との折衝経験がある」という記述ですが、Web系企業への転職では役に立たないということです。もし、「コミュ力のアピールがないと職務経歴書が寂しい」というなら、それはまだ転職への準備が十分でないということです。

負けずに進め非コミュ

ということで、Web系企業への転職を考えるなら、アピールするべきは「コミュ力」ではありません。アピールするべきは、「問題解決能力」です。

人と話すのが苦手だという人は、そのために少し訓練が必要となるかもしれませんですが、どのみち書類審査に通ったあとは面接を受けないといけません。そういったタイプの人は、IT勉強会に積極的に参加して、問題解決能力を訓練してみてはいかがでしょうか。

普段から、人を深いにさせずに相手の言うことを理解して、自分の考えをしっかり伝えて合意を形成する意識があれば、仕事上のコミュニケーションでも問題ないはずです。

幻想を捨てる

夢見る女性

最後は、一番の難関「Web系企業への幻想」を捨てましょう。

幻想というのは、SIからWebへの転職での志望動機で語られる、こういった記述を指します。

  • 技術レベルの高いところで働きたい
  • 作って終わり、ではなく愛着を持って継続的に開発したい
  • ユーザーの声を直接聞ける仕事がしたい

1つずつ、幻想を打ち砕いていきましょう。

「技術レベルが高い」のは幻

「パレードの法則」をご存知でしょうか。

最も有名なのは、「働き蟻の20%はサボっっている」というものです。この法則は、エンジニアの世界にも当てはまります。

エンジニアが複数いるとして、一定以上の「優秀なエンジニアは全体の20%程度」です。残りの80%には凡庸な能力しかありません。さらに細かく凡庸なエンジニアの能力を見てみると、許容できる程度に凡庸なエンジニアが80%。つまり全体の64%。そしてその残りは、凡庸というにも当てはまらない、ひょっとしたら「居ないほうがマシ」なエンジニアです。

つまり、「Web系企業には優秀なエンジニアが集まっている」というのは幻想。そんな神々しい神の国に見える企業も、実情はそんなもの、と思っておいてください。「あの企業にいけば優秀なエンジニアと共に自分も成長できる」という幻想は早く捨ててください。

自社サービスのダークサイド

「継続的な開発」に関しても考えてみましょう。

サービスがユーザーに受け入れられ、利益が発生すると、継続的に運用や追加開発を行うことになります。「自分が作ったものに愛着を持ちたい」という気持ちで転職を希望する方には、これは魅力的でしょう。

しかし、別の面を見ると、これは「同じコードベースをメンテナンスし続ける」ということでもあります。そういうシステムの大半は「レガシーコード」となってしまいます。

以前の担当者は、果たしてOOPを理解していたでしょうか?ユニットテストを書く習慣があったでしょうか適切な名付けができていたでしょうか?最低限のドキュメントを作っていたでしょうか?そうでないコードを引き継ぐ時、その日からレガシーコードとの戦いが始まってしまうのです。

また、すでに動いているサービスのアーキテクチャを印新するには、大変な困難が伴います。サービスの停止が許容されますか?安定して動きますか?習熟しているエンジニアはいますか?そして何より、経営的な視点から、アーキテクチャを印新するコストは認めてもらえますか?

受託開発と違うのは、自社サービスが納品して終わりではないということです。受託開発では、納品して検収印をもらえば、そこでコードたちとお別れです。ですが実は、この納品には残念な仕事との関係をリセットできるというメリットがあるのです。

あこがれだったあのサービスは、とんでもないレガシーコードの山かもしれない、今をときめくこのサービスのプラットフォームも、内情は自他ともに認める汚いコードかもしれません。

サービスそのものへの魅力とコードの魅力を混同するその幻想も、捨て去ってしまいましょう。

ユーザーの声を向き合う幻想

コミュニケーションの欄でも少し触れた「エンドユーザーの声」についてもお話しします。

「ユーザーの声を直接聞ける」のは確かに魅力的です。苦労して開発したプロダクトが、エンドユーザーの役に立つ。その結果として対価が支払われたり、感謝の声が届くのはとてもうれしい体験でしょう。

ですが、そのプロダクトがエンドユーザーの期待を裏切ったとしたら。その場合届くのは対価でも感謝の声でもありません。罵詈雑言です。

ユーザーサポートに「死ね」と何十回も何百回も書かれたメールがひたすら届いたり、ユーザーからのあらゆる罵詈雑言が届けられます。エンドユーザーの愛着が強いほど、裏切られた時の反動が大きくなり、人気サービスを運知るう企業には「死ね死ねメール」や「社員の殺害予告」などが届くこともあります。ほかにもSNSや2ちゃんねるにも、酷評が書かれることが珍しくなくなります。

こうした感謝、罵倒すべてが「エンドユーザーの声」なのです。「毎日エンドユーザーからの感謝の声が届く」なんて幻想も捨ててください。

まとめ:正しい意識で転職を

今回は、「SIerとWeb系企業の違い」について解説したわけですが、冒頭で述べたマトリクスを見て、自分の本当にやりたいことを考えてみてください。その自分がやりたいことは、どの象限までいけば実現できるのか、そこまで検討しておきましょう。

SIerからWebへのあこがれを感じている方の中には、まだまだ間違った幻想に縛られている人が多いです。転職を成功させるには、その幻想をしっかりすりつぶしてからでないと、その転職が成功することはありません。